Sunday, March 15, 2015

「Gigaom」のシャットダウンに寄せて

Gigaomがなくなってしまいました。

正確に言うとGigaomという会社が破産したわけではありません。債務不履行になり、3月9日(米国時間)の営業をもってすべてのオペレーションが不能になってしまったというのが現状のようです。同社のすべての資産は今後債権者の管理下に入ると、マネジメントチームが報告しています。

サイトはまだ存在しており、過去の記事を読むこともまだできるようです。最後に掲載された記事は3/9付けのApple Watchレポートですが、おそらく、もう新しい記事が更新されることはないと思います。同社のスタッフも10日付でほぼ全員「明日からは出社に及ばず」状態になったようで、本当に気の毒としか言いようがありません。

実は筆者は3月18日 - 19日にニューヨークで予定されていたGigaom主催のデータアナリティクスのイベント「Gigaom Data Structure」にプレスとして参加することになっていました。当代きってのデータサイエンティストと言われるヒラリー・メイソンやTwitterのセス・マグワイア、Cloudera CEOのトム・ライリーなどなど、データアナリティクス業界のトップエグゼクティブが一堂に会する機会は米国でもめったにありません。フライトもホテルも自前でしたが、十分にその価値はあるイベントだと確信し、費用もスケジュールもなんとか工面して、「Akiko、前日のVIPレセプションにも招待するからぜひ来てね! Microsoft Azureのマシンラーニングについても話をするから!!」というGigaomからの数日前のメールに気を良くしながら、ニューヨークへと飛ぶ日を待っていた3月10日の午前中に突然届いたGigaomからの「Gigaom is closing its doors」というサブジェクトのメール、そしてシャットダウンのニュースに、ただただ呆然とするしかありませんでした(ちなみにGigaomから連絡が来たときは、ホテルも飛行機もすでにキャンセル不可のタイミングでした)

しかしニューヨークのイベント中止よりも本当につらいのは、自分にとって最愛のメディアであるGigaomがもうなくなってしまうということです。筆者は社会人としてのキャリアのほとんどをテクノロジ系メディアの関係者として過ごしてきましたが、自分がこれまでかかわってきたどの媒体よりもGigaomに対しての思い入れのほうが強いです。とくにフリーランスとして活動するようになってからは、クラウドコンピューティングやビッグデータといった分野を取材の中心にしてきたため、そうしたイノベーションの最新情報を質の高いコンテンツとして提供してくれるGigaomは筆者の毎日に欠かせない存在でした。記事の質、ライターの質、サイトの質、そしてテクノロジとその業界に対するスタンス、etc... Gigaomは筆者がこれまで追いかけてきたテクノロジ系メディアの理想型に近いものでした。いつかメディアを手がけることができるならGigaomのようなサイトを作りたい、その思いはいまも変わりません。そしてサイトだけでなく、同社が主催するイベントも本当にハイクオリティで、筆者はこれまでに2回、サンフランシスコのGigaom Structureに取材に行っていますが、そこで得られた知識と経験の大きさに今でも本当に感謝しています(Structureのレポートはこちらなどを読んでもらえれば)。ああ、きっと今回のニューヨークのイベントもすばらしかったんだろうなあ…(涙)

2014年6月の「Gigaom Structure」のヒトコマ。左はご存知AWSのヴァーナー・ボーガスCTO。Structureには毎年登壇していた。右はGigaomファウンダーのオム・マリク。同氏はこのときすでにGigaomの経営から離れていた

今回のシャットダウンでもうひとつつらいのは、Gigaomのように優秀な記者や編集者を何人も抱えて質の高い記事を日々提供していくスタイルのメディアは、たとえ米国であっても資金的に運営が苦しいという現実をあらためて突きつけられたことです。筆者はフリーランスとして国内の数多くのメディアにお世話になっている身分ですが、どこの出版社/編集部もコンテンツ作成の予算は非常に限られており、そして残念ながら、この状況が今後改善していく見込みがあるとは到底思えません(すいません…)。でも米国にはGigaomのようなクオリティ重視のメディアがビジネスとして成立するのだから、日本でも同じような可能性を模索できるかもしれない - Gigaomのシャットダウンはそんな淡い(甘い)希望もがっつりと断ち切ってくれました。日本だろうと米国だろうと、テクノロジ系メディアの運営はキツくきびしく、儲かる可能性は非常に小さいことに変わりはないのです。

しかし嘆いてばかりもいられません。

すぐれたスタッフを揃えて質の高いコンテンツを毎日提供し、テクノロジベンダやベンチャーキャピタルとも良い関係を築き、読者からも業界からも信頼に足るメディアを作り上げたこと、そしてクラウドやビッグデータ、モバイル、ソーシャルといった最新テクノロジがもたらす可能性の大きさを世の中に伝え続けてきたこと、Gigaomが資金的に詰んでしまったとはいえ、これまで培ってきた同社の功績が否定されるわけではないはずです。「美しく敗けることは恥ではない」というヨハン・クライフの言葉のように、クズみたいなバイラルサイトやキュレーションサイト、まとめサイトがはびこるメディアの世界におもねって生きていくよりも、Gigaomの残したDNAを何かしら受け継ぎつつ"良質なコンテンツ"にこだわった情報発信を苦しみながらでも続けていくほうを選びたい、そのために自分は何ができるのか - 取材旅行のチケットが急遽、季節外れの休暇のチケットに変わってしまいましたが、極寒&豪雪のニューヨークにて、すこし考えをめぐらせてこようと思っています。