Tuesday, May 7, 2013
祝紫綬褒章! 誰よりも確実に未来を見据える浅川智恵子が次に目指すもの
浅川智恵子という女性の名前を初めて知ったのは2009年、彼女がIBMのフェローに昇格したときだった。全盲の日本人女性がIBMフェローになったというニュースを聞いたとき、この栄誉ある職位を勝ち得た女性の業績とその人となりに強く引かれた。
小学生時代のプールでの事故がきっかけで中学2年で完全に失明した浅川だが、悲嘆にくれる人生を選ぶかわりに、ソフトウェア開発の道を志す。その後、学生研究員として採用されたIBMの基礎研究所に正式入所、デジタル点字システム、ホームページリーダー、音声ブラウザなど視覚障害者のための数々の技術を世に送り出し、Webアクセシビリティ研究の第一人者となっていく。彼女の下でアクセシビリティの研究をしたいと志願する若手研究員の数は、毎年、世界中から引きも切らないという。
写真は2010年12月、日本IBMの箱崎事業所でインタビューしたときのものだ。「もともと楽天家というか、何か悪いことが起こっても“しょうがない、別の方法を考えるか”という感じなんです。目が見えなくなったときも、あまり深く考えこまなかったですね」と楽しそうに答えてくれた笑顔が印象に残っている。「いまとても重要に思っているのは、これから日本が高齢化社会を迎えたとき、ITでどこまで支援できるかということ。実際、高齢化が進むのは日本だけではなく、多くの国が今後直面する問題です。一足早くそのときを迎える日本は、ほかの国のロールモデルになれるチャンスがあります。 障害者が使いやすいシステムをこれまでいろいろ研究してきましたが、その成果を今度は高齢者支援にも役立てていきたいですね。新しいアイデアがいろいろ浮かんできて、研究チームの若者と一緒に取り組んでいます」(2010年インタビュー時)
4月29日に発表された2013年春の紫綬褒章の受賞者一覧には、松任谷由実や熊川哲也とともに浅川智恵子の名前が連なっている。あらゆるハンデを持ち前の明るさと世界が認める実力で乗り越えてきた彼女にこそ、その栄誉はふさわしい。だがその目はもう、すぐそこにある未来を誰よりも確実に捉えているに違いない。