先日、日本マイクロソフトと愛媛県の共同会見に行ってきました。MSお得意の地方活性化プロジェクトの一環で、愛媛県のサイクリングパラダイス施策をクラウドで支援するというもの。記事はこちらに書いております。
「クラウドでサイクリングパラダイスを」愛媛県と日本マイクロソフトが連携
会場には愛媛県のゆるキャラの「みきゃん」ちゃんが来ていて、すごくいい匂いがー
さて、個人的にこの事例で興味をもったのは、この「愛媛マルゴト自転車道」というサイトがAzureとDynamics CRMで構築されているという点です。とくにDynamicsと聞いたときは、なかなか良い選択だなーと思いました。
Microsoftという会社には、しばしば「ひょっとしてPR下手なの?」と思わされることが少なくないのですが、とくにDynamicsに関しては、こんなに良い製品なのにどうしてこうまで知名度が低いのか、非常に残念でなりません。
かくいう筆者も以前は「だいなみくす? なにそれおいしいの」状態でしたので、偉そうなことはいえません。しかし、アトランタで行われたDynamicsのイベント「Convergence」に取材で参加してからは、すっかりDynamicsの良さに魅了され、ことあるごとにDynamicsの良さを吹聴して回るようになりました。CRM製品として、価格性能比が優れているという点ももちろんありますが、何よりユーザの要望にあわせて自由自在に使えるカスタマイズ性が本当にユニークですばらしい。オンプレミスはもちろん、クラウドで使えるDynamics CRM Onlineも用意されているし、中小企業からエンタープライズまで、どんなタイプのユーザでも、まるでキャンパスに好きな絵を描くように使うことができます。CRMといえばSalesforce.comが最大シェアを誇っておりますが、Dynamicsほど自由度は高くないように思えます。逆に言えば、製品としての存在感というか、IT製品を使ってる感が強いのはSFDCのほうなのでしょう。
Covergence 2010ではまだスティーブン・エロップが ビジネス部門のトップをやっていました。このすぐあとにNokiaのCEOになっています |
ちなみにDyanmicsにはCRMだけじゃなくERPなんかも含まれますが、とりあえずここではCRMのことだけを指しておりますのでご了承を。
IT製品の特徴を表現するとき、とりわけクラウドサービスにおいては「柔軟性(フレキシビリティ)」という言葉がよく使われます。そしてDynamicsほど柔軟性にすぐれているプロプライエタリを筆者はほかにあまり知りません。CRMと言いながら、人間以外を管理対象のCustomerとして扱うこともできるので、不動産物件の管理などに使われている事例もあります。今回の愛媛の事例でも、サイクリストが撮影した写真や動画、執筆したテキストなどのコンテンツをDynamicsで管理しており、まさにDynamicsの自由度の高さを活かした事例だなーとうれしくなりました。
逆にこの柔軟性が仇となり、SIerなどから見ればユーザに勧めにくい製品になっているのかもしれません。実際、Dynamicsを担いでいるパートナー企業は相当Dynamicsに入れ込んでいるというか、その良さを知り尽くしていると聞きます。自分たちでまず使い、良いものだとわかった上でお客さんに勧めているので、結果として良い事例につながる。しかし、そうではないパートナーだと、Dynamicsのような自由度の高すぎる製品、はじめにユーザありきを想定した製品は、手間が増える面倒な存在なのかもしれません。
もっとも、SFDCのように完成度の高い製品を使うことにもメリットはあります。たとえばSAP ERPなどでもよく言われるのですが、完成度の高い製品は、ユーザをその製品にふさわしいレベルに成長させるパワーをもっています。着物を着るとふだんはがさつな女性でも自然と仕草がはんなりするように、良い製品が良いユーザを育てるというケースがあるのは事実です。ただし、Dynamicsの場合は、どちらかというユーザの現在(いま)に寄り添い、現状の課題にフィット&フィックスしつつ、解決と改善を図っていくという製品なので、問題意識が明確ではない企業がただなんとなく単品のCRMとして導入しても効果は薄いでしょう。
SFDCとDynamicsの比較についてもうひとつ。国内でのシェアにこれほど差がついたのは、製品の差というよりも、スタートダッシュの差にあったと筆者は思っています。
まだクラウドというものが子供のおもちゃのような言われ方をしていた2007年、SFDCは日本郵政の大量導入事例を発表しました。この事例が当時のIT業界にものすごいインパクトを与えたことをご記憶の方も多いと思います。クラウドの黎明期に、民営化を果たしてまだ数年の日本郵政がSaaSという耳慣れないソリューションを大量に導入し、新たな環境をローンチさせたという事実は、多くの日本企業にクラウドへの関心を励起させ、さらにSFDCの日本市場進出に大きなはずみをつけました。生まれ変わろうとしている組織が新しいIT技術でもって再スタートを切るという、クラウドの可能性を象徴するにこれほどふさわしい事例は世界を見渡してもそうはないでしょう。Dynamicsもその後、日産など大企業に採用されたりしていますが、残念ながら日本郵政のインパクトには遠く及びません。
いまだ横たわる大きなギャップをDynamicsはどう埋めていくのか、面白くもなんともない答えで恐縮ですが、地道に良い事例を重ねていくしかないと思います。そうした意味で今回の愛媛の事例は非常によろこばしいニュースでした。ただがっかりしたのは、会見でマイクロソフトがほとんどDynamicsについてアピールしなかったこと。自治体との連携という一般紙も対象にしたニュースであったため、必要以上に詳細に触れることはしなかったんでしょうが、なんともDynamicsにとってもったいなかったなーと、いちDynamics好きとして残念に思うのでした。