2012年7月、スタンフォード大学発のベンチャーNiciraをVMwareが約12億ドルで買収するというニュースは、ネットワーク業界にちょっとした衝撃をもたらした。設立から5年弱のNiciraは、次世代ネットワークと言われるSDN(Software Defined Network)の分野では高い技術力をもつ企業として、業界内では知る人ぞ知る存在だった。それだけに「VMwareは良い買い物をした」と評価されるかたわら、「VMwareとNiciraのアーキテクチャを統合するには相当な時間がかかるのでは」という憶測も流れた。
VMwareは昨年8月の年次イベント「VMworld 2012」において、1年後にはNiciraの技術を組み込んだ製品を発表すると公言した。買収した企業の技術統合を1年で行うのはそれほど容易ではない。だがVMwareはそのコミットメントを忠実に実行する。8月25日からサンフランシスコで開催された「VMworld 2013」では、VMwareが注力するSoftware Defined Datacenter(SDDC)を支える新製品としてネットワーク仮想化プラットフォーム「VMware NSX」が発表された。CEOのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)とともに、キーノートの壇上で新製品の発表を行ったのはマーチン・カサド(Martin Casado)、Niciraの創立メンバーであり、現在はVMwareのネットワーク部門CTOを務める人物である。
スタンフォード時代からスーパーギークとして知られていたカサドは「ネットワークは内向きになってはいけない。エッジから外に向かって自由に拡がっていくべき」という強い信念をもっている。そのためにはネットワークを物理デバイスから切り離して仮想化し、リソースプールから自由に割り当てるプロセスが欠かせない。SDNにフォーカスしたNiciraを創ったのはそうした理由からだったが、ベンチャーでSDNビジネスを展開する限界を感じていたころにVMwareから買収が提案されたという。互いの利益が一致したまさにうってつけのタイミングだったのだろう。「今はもうSDNというタームにとらわれる必要はないと思っている」というカサドの発言からは、Niciraからさらに先を行くネットワーク仮想化に挑んでいる姿がうかがえる。
「ネットワークの世界を変える」というスタンフォード時代から培った強いパッションはVMwareという大企業でVMware NSXとしてひとつのゴールを見ようとしている。正式ローンチは2013年末、VMware ESXがサーバの世界に与えた衝撃のように、VMware NSXもまたネットワークの世界を変えることができるのか、その実力が試される。