Friday, April 5, 2013
ケビン・リンチのApple移籍に象徴される5年という時間の長さ
AdobeのCTOを務めていたケビン・リンチ(Kevin Lynch)が同社を離れ、Appleに移籍する - はじめはただの噂かと思ったが、3月20日にはAppleのシニアバイスプレジデントがこれを認めた。すでにリンチのTwitterプロフィールにも"Apple"の文字が踊っている。
2005年にMacromediaがAdobeに買収されて以来、Macromediaの技術トップだったリンチはそのままAdobeでも重要なITアーキテクトとして迎えられ、CTOという高い役職を与えられた。以来、AdobeとFlashの顔として活躍してきたが、最も我々の記憶に残っているのはやはり、iPhoneへのFlash搭載をめぐるAppleとの一連の争いだろう。モバイルには適していないと頑としてFlashのiPhone/iPadへの搭載を拒んだ故スティーブ・ジョブスは「Adobeの技術者は怠け者ばかり」と言い放ち、これを受けてリンチもまた「Appleは19世紀の(米国の)鉄道会社のよう。ユーザにコストがかかる方針ばかり押し付けている」と激しく応戦した。結局、iPhoneにFlashが載ることはなく、それが原因で2011年、AdobeはモバイルFlashの開発中止に追い込まれることになる。このとき、きっとリンチの中で何かが終わったのだろう。
写真は2008年11月に米サンフランシスコで行われたAdobeの年次イベント「Adobe MAX 2008」の基調講演に登壇したリンチの姿だ。当時、AdobeはまだAppleがFlashを向いてくれる望みを捨てていなかった。iPhone上でFlashを動かすためのネイティブアプリを作成し、この講演でデモを披露していたこと、メディアから「いつFlashはiPhoneに搭載されるのか」としつこく訊かれ「Appleに聞いてくれ」とややキレ気味に答えていたことなどを思い出す。「携帯電話から大型スクリーンまで、あらゆるデバイス上でFlashを動かす。それがAdobeの使命」と強く意気込んでいたリンチ。そして5年後のいま、彼は敵対していたはずのAppleに移った。肩書きは不明だが、バイスプレジデントより上であることは間違いないだろう。IT業界の人間にとって、5年という時間は過去を水に流すのに十分過ぎる長さなのかもしれない。