Friday, April 3, 2015

【2015年3月のTop Tweet】AppleのFoundationDB買収に黙るオープンソース界隈

【お詫び】執筆当初、「FoundationDBをオープンソース企業」と記述していましたが、コア部分のKVSはプロプライエタリライセンスで提供されており、 明らかに筆者の誤解に基づく誤った記述でした。このため、コラムの主旨は変えておりませんが、表記を若干修正しています。混乱させた皆様、大変申し訳ございませんでした。


春だから新しいことを始めよう!…と希望に燃えるようなガラでもないのですが、ここ最近、早朝(5時 - 8時くらい)にエンプラ系の気になったニュースをまとめてツイートしています。ちょうど米国西海岸が午後の業務まっさかりの時間帯のせいか、ニュースの質も数もほどよい感じで、朝早いにもかかわらず、わりと多くの方に読んでもらえているようです。なのでなるべく続けたい…意志薄弱なので確約はできませんが(_ _;)

そんな中で、ツイートした瞬間からかなりの反響があった投稿が冒頭で紹介したAppleによるFoudnationDB買収のニュースです。筆者が3月中に紹介したニュースの中でも飛び抜けてインプレッション/RTともに多く、最初の報道から1週間経った現在でも毎日かなりの方に閲覧されています。

実はこのニュース、現時点(4/3)ではAppleからのプレスリリースを見つけることができません。元記事の「ReadWrite」も「TechCrunch」の報道を参考にして書かれており、当然ながら買収金額や今後のFoundationDBの扱いについても不明のままです。ちなみにTechCrunchの記事は日本語にも翻訳されているようです。
まあ、Appleの買収案件は概してこういうnon-disclosureな感じなのでそれに関してはあまり驚きはありません。驚いたのはツイートでも紹介したように、買収の翌日(3/27)にそれまでオープンソースだったFoundationDBのGitHubページを削除、プロダクトのダウンロードを不可にし、クローズドソースにしてしまったことです。FoundationDBのサイトはまだ存在していますが、そのコミュニティページにはこう書かれています。
Thank you for your support of FoundationDB over the last five years. We’re grateful to have shared our vision of building the best database software and we strongly value your participation in this community. We have made the decision to evolve our company mission and, as of today, we will no longer offer downloads. If you have any technical questions, please email info@foundationdb.com. 
(思いっきり意訳) この5年間、FoundationDBをサポートしてくれてありがとう。最高のデータベースを作る!という我々のビジョンをみんなと共有できたことを誇りに思うと同時に、コミュニティに参加してくれたみんなを本当に素晴らしいと評価したい。さて、FoundationDBはさらなる進化を遂げるために新たな決断をした。なので今日をもって、ダウンロードはできなくなる。もし技術的なことで質問があったら、こちらにメールをくれたまえ。
技術的なことは答えるけど、あとはノーコメントでよろしくね!というすがすがしいまでの門前払いっぷりです。ホントに数日前までGitHubでページを公開していた企業とはとても思えません。おそらく近いうちにこのページもなくなってしまうんでしょうね。

AppleはもともとMongoDBやCassandrraといったNoSQLのヘビーユーザだったことで知られています。世界中でユーザが増え続けるiTunesやiCloudを支えるバックグラウンドのインフラとして、リアルタイム分散処理を超高速に実現し、スケールしやすく、しかもNoSQLにありがちなACID軽視を極力抑えたFoundationDBを選んだというのは非常に良い選択だと評価できるでしょう。しかも最近のNoSQLは本当に進化のスピードが速く、確実に既存のRDBMSの領域をリプレースしつつあります。筆者はときどきRDBMSとNoSQLの比較記事を書く仕事をいただくのですが、1年前くらいまでは必ず折り込んでいた「NoSQLとは"Not Only SQL"であり、決して"NO SQL"ではない」という常套句さえ、もはやいらないんじゃないか、と感じることがしばしばあります。RDBMSがいらなくなる世界も十分に考えられる時代が来つつあるのではないかと。

したがってAppleが自社でNoSQLを新たに開発するより、手頃なサイズのオープンソース企業を買収したというのは戦略上、非常によく理解できます。ですが、買収翌日にオープンソースのレポジトリを何のメッセージもなしにクローズドソースにするという、オープンソース界隈から見たら暴挙とも言えることを平然とやってのける姿勢には、いくらなんでもそれはないんじゃないの?という思いを隠せません。ただAppleが巧妙なのは、FoudationDBという存在が数あるオープンソースNoSQLの中でもかなりマイナーな、知る人ぞ知る存在ということを利用している点です。もしこれがMongoDBクラスの企業/プロダクトならさすがにここまで乱暴なことはできなかったでしょう。「FoundationDBなんて、あなたたち知らなかったでしょ。使ったこともないでしょ。forkすらもしてないよね。だから別に問題ないよね、ウチだけのモノにしちゃっても」という斜め上からの声が聞こえてきそうです。実際、こういう自体になってから「えー、マジで誰もforkもしてなかったの!?」とあわてふためていてGoogleのキャッシュを漁っている輩が少なくないわけですから。

もうひとつ、この件で「どうなのよ」と思うのは、オープンソース界隈の開発者/ユーザの沈黙です。もし同じようなことをMicrosoftやOracleがやったら、彼らは業界を挙げ、声を荒らげてDoS攻撃ならぬ派手なDis攻撃を敢行するでしょう。ところが開発者もユーザもAppleにはとことん甘い。オープンソース大好き!をふだんから声高に叫んでいる方々も、今回の件にはなぜかだんまり。メディアの反応も調べてみましたが、正面切ってAppleを批判している記事はほとんどなく、どれもこれも歯切れの悪い論調ばかりです。iPhone 5のバカ地図騒ぎのときも、よくこの程度でみんな許しているなーと思いましたが、今回も同じ、Appleがやることには目をつぶっておこうという暗黙の了解みたいな空気を強く感じます。Appleの行為を「オープンソースのスタンダードから逸脱している」とはっきり批判することがはばかられるような空気、それがオープンソースのスタンダードになってしまっているんでしょうか。そうではないことを個人的には信じたいのですが。